常設展Ⅲ

会期|
2022.2.11-2.22 (水曜日は休廊)
時間|
15:00-20:00
場所|
パープルームギャラリー
企画|
パープルーム
協力|
パープルーム

本展について




パープルームギャラリーで開催される「常設展Ⅲ」はたんたんと粛々と行われるはずだ。展覧会の内容も特に目新しいものではないだろう。本展を開催する背景や動機について簡潔にまとめてみた。

いまさら確認するまでもなく、コロナウイルスはここ2年の間わたしたちに脅威を与え続け、生活習慣までも一変させた。コロナ禍が収束した後もその影響は長期にわたって続くだろう。コロナ禍は美術、とりわけ「展覧会」にも大きな影響を及ぼした。不要不急の外出を避けることが「良し」とされる昨今、多くの美術展や展覧会は中止や延期を余儀なくされたり、もしくは予約制による来場者数の調整がなされたりしてきた。パープルームのようなオルタナティブな活動を展開してきた「集団」にとってもコロナ禍の影響は甚大だった。
いくつか例を挙げると、パープルームギャラリーの隣に店を構えパープルームと親交が深い「みどり寿司」の客の激減、メンバーであるわきもとのアルバイト先がコロナの影響で時短営業になり実質的に失業、梅津が企画していた日本橋三越での展覧会の2度にわたる延期など。それらをきっかけに「美術」とは「展覧会」とはなんなのかをあらためて考えた。
その結果、パープルームが運営するパープルームギャラリーではコロナ禍のごく初期の段階である2020年の4月、5月の緊急事態宣言下に「常設展」と題されたグループ展を2度にわたって開催することを決めた。

ところで、現代のアーティストたちは震災の時と同様に次なる時代のビジョンの提示や希望を期待されがちだ。しかしながら、アーティストたちにそんな役割を期待すること自体、果たして妥当なのだろうか。もちろん、芸術活動には様々な理念、活動形態があって良いはずだ。しかしながら、文化芸術関係者向けの持続化給付金や乱発されるクラウドファンディングによる支援の先で、本当の意味でのコロナ禍の危機を捉えることは可能なのだろうか?コロナ時代のアートの一部はすでに行政の文化事業の一環として取り込まれてしまったように見える。

パープルームは集団(クラスター)なので人が集うことを前提として活動している。リモートワークや持続化給付金はパープルームの活動においてなんの意味もなさない。わたしたちが思うコロナ時代のアートとは常に感染のリスクを負いながらもそれを受け入れることに他ならない。それはアートに限ったことではなく人の営み全般がそうではないだろうか。
わたしたちは「ポスト・コロナ」のような耳障りのいいキャッチフレーズを掲げることなく、飲食店業を始めとする市民の営みと同じ地平からコロナ時代のアートについて考えたい。パープルームはフリーランスのアーティストと日雇い労働者兼アーティストの寄合所帯であるからこそ美術とはなんなのかを体現できるはずだ。

わたしたちは美術をあくまでも日常の営みの延長として捉えている。




梅津庸一(美術家・パープルーム主宰)











作家のプロフィール

安藤裕美
パープルームの日常を絵画、漫画、アニメーションで捉える。本展に出品される《京都のホテルで「白い巨塔」を見るシエニーチュアンと梅津》(2021)にはコロナ禍の影響で値崩れしたビジネスホテルにメンバーみんなで宿泊し、テレビドラマ「白い巨塔」(2003)を鑑賞している様子が描かれている。


梅津庸一
昨年は六古窯のひとつである信楽に滞在し作陶に勤しんだ。信楽には梅津の一人暮らし用のアパートがあり今後も信楽での作陶は継続される予定だ。本展に出品される《花粉濾し器》(2019-2020)は梅津が陶芸を始めたばかりの頃に作ったもので、現在の《花粉濾し器》とは形状が異なる。


シエニーチュアン
キャラクター絵画から抽象表現主義の黎明期を思わせる絵画様式に変遷したシエニーチュアンだったが、昨今のコロナ禍におけるアートバブルに辟易し自らの立ち位置を再確認し自己言及するファウンド・オブジェ《Real estate of Japanese modern and contemporary art》(2022)を本展の為に制作。また、シエニーチュアンはパープルームと縁が深いみどり寿司の店員でもある。


わきもとさき
コロナ禍の影響でアルバイト先だったファミリーレストランが同じ系列のカフェに変わった。それに伴い出勤時間や仕事内容にも変化があった。生活と労働を制作の主軸とするわきもとにとってこの変化は大きかったと言えるだろう。本展の出品作《せいかつ用担架》(2021)は水平にして使用する担架とそれを運ぶ人の垂直の足に衣類がまとわりついている。


アラン
日々、生活費を稼ぐためカードゲーム屋でアルバイトをするアランだが、最近はアートへの関心を失いつつあった。しかし本展に出品するドローイング《How to play the table games at the same time and their effect.》(2022)からは日々変化するパープルームや身の回りの環境のなかに今一度、「ゲーム」を見出し再起動する様子がありありと見て取れる。


齊藤孝尚
2020年にコロナ禍の影響で当時齊藤が働いていた航空機の部品を生産する会社の派遣切りにあった。それを機にアートの道を志し、新潟から相模原に引っ越して1年以上が経過した。本展への出品作《突き刺さる午後》(2022)は鉛筆、パステルによる素描だが、工学的な幾何学形態と人の手による不正確さにちょうど100年前のピュリスムを思わせる秩序が確認できる。


新関創之介
新関による《リンゴ》2008年は卓上にリンゴがS字に配された油彩画である。新関からパープルームに寄贈された本作は2018年の「パープルタウンでパープリスム」や2019年にパープルームギャラリーで開催された新関の個展「油絵 新関創之介の創世日記」にも出品されている。なんの変哲もない、とるに足らない、平凡な、そんな静物画に宿る「おかしさ」を今一度味わいたい。