二艘木洋行さんと山本直輝さんの作品をgnck先生をお呼びして検証する展覧会

会期|
2019.5.11.-5.25.(水・木曜日は休廊)
時間|
15:00-20:00
場所|
パープルームギャラリー
企画|
パープルーム
協力|
gnck

本展について




この度、パープルームギャラリーでは「二艘木洋行さんと山本直輝さんの作品をgnck先生をお呼びして検証する展覧会」を開催することになりました。

前回開催した『「新しい具象」とは何だったのか?90年代のニュー・フィギュラティヴ・ペインティングをめぐって』展では美術評論家の西村智弘を招き90年代の美術大学系の絵画もしくは黎明期のコマーシャルギャラリー系の絵画の原点を振り返りました。本展は90年代の「新しい具象」の作家とは全く違う出自を持つ2000年代の作家たちについて検証するため企画されました。二艘木洋行と山本直輝という二人のアーティストを起点に美術批評家のgnckの視点も交えながらゼロ年代からテン年代のネット文化、オタク文化、アートの一端を捉えようという試みです。また、gnckが美術手帖第15回芸術評論募集で一席をとった「画像の問題系 演算性の美学」(2014)を補完する最新の論考も本展に合わせて発表されます。さらに二艘木、山本以外の美術展や印刷媒体に露出がない人々の活動も合わせて振り返り検証します。これらのインターネットを中心に活動してきた人々の創作物は展覧会の記録や印刷物として残っていることは稀でありアーカイブもされていないため早い段階で検証することはわたしたちにとって急務であると考えています。

二艘木洋行(1983年生まれ)は「お絵かき掲示板」と呼ばれるネット上の投稿サイト兼描画ツールを主戦場に活動しゼロ年代の想像力の一翼を担ってきました。二艘木は今となっては低スペックとなってしまった描画ツールを使い続けています。絵を描くという行為はそもそも様々な制約を受け入れなくては成立しません。それは「お絵かき掲示板」でも「油絵」でも同じことです。しかしその制約の質はメディウムによって異なります。二艘木は「お絵かき掲示板」という演算システムを内面化し身体化することでこれまでの絵画史のなかで培われてきた絵画のセオリーをオミットすることに成功していると言えるでしょう。それは紙を支持体としたドローイングにおいても同様です。2012年以降はギャラリーや美術館など美術の領域での活動が増えてきました。2014年にはパープルーム予備校で油絵の制作をしたり、パープルームの最初の展覧会『パープルーム大学』(名古屋)に参加したりもしています。

山本直輝(1982年生まれ)の作品はまずIllustratorで作画され、それをキャンバスにトレースし作者自身の手で精緻なぬり絵のように描き直すことで作られます。20世紀の巨匠フランシス ・ベーコンを想起させる構図、そして80年代のレトロゲームのようなベタの塗りや正面性の強さなどが特徴的です。山本作品は雑誌などからサンプリングされた人物、小部屋を思わせる建築的構造を表す色面、ドローイング風の線(絵の具の滴りを偽装したりもする)などがコラージュ的に縫合されることによって成り立っています。また画中に登場する手足の切断面やパースのついていない直方体の辺は絵画の物理的な表面との間で不和を起こします。それらの「おかしみ」はキャンバスに描き直されることでさらに増幅しています。また昨年は『パープルタウンでパープリスム』(神奈川)にも参加しました。
 
この二人の同世代の作家の共通点としてTVゲームやパソコンのグラフィックがドット絵から高解像度の3DCGに至る、技術の進化の過程を子供の頃から目にし、一緒に成長してきたということが挙げられるでしょう。二艘木作品においてピクセルのジャギーや、描いている最中に生まれる図の切れ端などを積極的に作品の構成要素として採用している点や、山本作品においてIllustratorのベジェ曲線と低解像度のブロックノイズを併置する点などからも明らかなように、グラフィックの進化過程に見られる「蒙古斑」のような必ずしも産業技術の中では歓迎されてきたわけではない過渡期ならではの欠陥や不備とも言える要素を作品の中できわめて自覚的に扱っています。この点は絵画における筆触や様式と比較するとわかりやすくはありますが、直ちに絵画史と接続して考えることには慎重でありたいと思います。そんな産業技術と密接に結びつきながらも本来想定されていなかった画像の演算システムの隙に自らの表現の語彙を重ね合わせた彼らの絵の構築システムは、美術史とどのように重なり、あるいはすれ違うのでしょうか。

gnck(1988年生まれ)は東京都足立区に生まれました。実家近くにある荒川沿いはgnckの心の原風景でありドット・イラストレーター豊井が描くような典型的な郊外の風景です。ちなみに小学校と高校では同級生に現在アーティストの瀬尾夏美がいました。gnckという謎めいたペンネームはCMYKから来ているわけではなく、小学生の頃よくプレイしていたPlayStation用ロボットアクションゲーム「アーマード・コア プロジェクトファンタズマ」でのプレイヤーネームに由来します。名前に「銀」が使いたかったことから銀閣を名乗り、インフォシークでIDを取る取得する際にGingcackとなり、敬愛するゲームデザイナー兼イラストレーターJNTHED(ジェイエヌティーヘッド)に倣いgnckの名が生まれました。またgnckには7つ上の兄がおり、その影響でガノタ(ガンダムオタク)になりました。『ガンダム』の劇中の人間ドラマや史実よりはガンプラなどを「ロボットもの」として享受していたようです。お絵かきソフトやドット絵を小学生から嗜んでいたgnckは中学生時代にイラストサイトに出会います。マリオペイント、MSペイント、キッドピクス、RPGツクールの自作素材の掲示板、パネキットなどを実際に使って創作活動を行い、後のpixivなどでの活動に繋がっていきます。美術との本格的な出会いは高校生の頃でした。デザイン科に入学してはじめて見た展覧会で「これを良いものと思わなきゃいけないのか?」という疑問を抱き、それが現在の批評活動のモチベーションの源のひとつになっています。2009年には『JNT×梅ラボ解体されるキャラ展』(東京)を企画しました。この展覧会ではキャラというメディウムをネット上から展覧会という空間に移行させるということが試みられ、当時アート界で散見されたなんとなくキャラクターを扱った絵画などへの批判の意識もその背景にはあったと言います。

gnckという批評家はその名前からも明らかなように、「子ども」であることを大事にしています。つまりTVゲームのプレーヤー、そして創作活動をしていた時の自分と批評家である自分を切断せず地続きに考えている節があります。それは昨年30歳になってようやく批評家という肩書きを受け入れたというエピソードを鑑みてもあながち間違いではないでしょう。インターネットという空間では匿名の有象無象の人々が属性や性別や世代、そして美術やアートという制度とも関係なく自由に創作活動を繰り広げてきました。gnckはそれを内部から当事者として見つめてきました。そしてその後、美術批評の領域に足を踏み入れたことで作り手の自我と批評家の自我が混じり合い、一種のクラフトマンシップを過剰に重んじる極めて真っ当で素朴なgnckの批評精神が構築されたと言えるでしょう。



パープルーム(2019年5月1日)






【関連イベント】

「gnck先生に聞く!ネット絵師講座」

日程は未定
webで公開。


作家のプロフィール

山本直輝 1982年生まれ 二艘木洋行1983年生まれ