パープルストリート、秋の素敵な展覧会

会期|
2020.10.3-10.10(水曜日は休廊)
時間|
15:00-20:00
場所|
パープルームギャラリー
企画|
パープルーム (梅津庸一)
協力|
小山登美夫ギャラリー、パープルーム予備校

本展について


パープルームギャラリーに面した通りをわたしたちは「パープルストリート」と呼んでいる。パープルストリートにはパープルームのメンバーであるシエニーチュアンとわきもとさきのアルバイト先である「みどり寿司」やファミリーレストランの「ジョナサン」などがある。また本展の出展者である續橋仁子と山本桂輔の自宅もパープルストリートから数メートル入ったところにある。一見なんの変哲もない並木道であるパープルストリートはわたしたちにとって素敵な出会いと偶然を運んできてくれる道だったのだ。


いったい何を言いたいのかよくわからない導入になってしまったが、ようするに相模原のとある通り沿いの小さなギャラリーで近隣に住む二人の作家の展示が行われるということだ。

本展の出展作家である續橋仁子と山本桂輔の背景を簡単に説明したい。

續橋仁子(1934年生まれ、神奈川県出身)は高校の体育教師だった。大学の頃、江口隆哉に師事し現代舞踊を学び、現在も社交ダンスを続けている。續橋が絵を始めたのは40歳の頃だ。續橋は二科展の作家が講師を務める公民館などを間借りした少人数の絵画教室に通い絵を学んだ。仕事が終わったあと夜中に制作することが多かったというが、忙しい時ほど制作に集中できたという。續橋は二科展と神奈川女流美術家展で昨年まで活動していたが、現在は出品していない。先日、わたしたちが續橋のアトリエを訪ねるとそこには約40年分の作品がぎっしりと詰め込まれていた。
二科展にはかつて坂本繁二郎や古賀春江らが出展していたが、現在の二科展は良くも悪くもカルチャーセンター化し絵画を批評的に刷新しようとする雰囲気は感じられない。そんな二科展ではあるが生涯学習の場として機能していることは間違いない。續橋は二科展と長年寄り添ってきたが最後まで審査される側だった。しかしながら續橋の作品は現在の二科展の会員や会友の作品と比べて全く引けを取らないどころか、二科展黎明期に第一線で活躍した洋画家の仕事との連続性が感じられる。本展に出展する作品は續橋がトルコ旅行で見た風景を主題にした二科展への出展歴がある大作シリーズである。カッパドキアの「妖精の煙突」と呼ばれる円錐形の岩や人物や魔除けの同心円状の模様が配されている。續橋が繰り返し描いてきたトルコや平山郁夫のシルクロードを思わせるラクダや旅人は西洋と東洋を繋ぐ役割を果たしており、續橋作品の洋画的な絵肌の強度や一つの様式に還元できない形態のありようがたんに西洋由来ではないことを物語っている。


山本桂輔は1979年生まれ。都立芸術高校で美術を学び、2001年に東京造形大学彫刻科卒業(2003年まで同大学の研究生)。
現在は小山登美夫ギャラリー(小山藝術計画)に所属し活動している。ゼロ年代は草花やキノコ、妖精などをモチーフに一見デコラティブで複雑な構造を持つ木彫や絵画を制作していた。その頃の山本の彫刻作品は彫刻というよりはテーマパークに置いてありそうな異世界のオブジェのようだった。なかにはギャラリーの5メートルの天井高に届くほど巨大な作品まであった。また、この時期の山本作品は加藤泉の植物とヒト型のクリーチャーが融合したような彫刻作品と共振していたと言えるだろう。
2012年以降は茶色など古色をベースにした落ち着いた作風に変化。収集した古道具に彫刻を施したり、植物や野菜、きのこなどを思わせる形態を擬人化させる小作品を手がけるようになる。
2016年には東京芸術大学大学院美術研究科彫刻専攻に入学し日本の近代彫刻を学び直している。卒業制作では橋本平八の《石に就て》(1928年)を下敷きにした作品を発表している。現在は高校教師をしながら美術の活動を続けている。

山本はゼロ年代にはいわゆる近代彫刻の枠組みに規定されないラディカルな作品を制作していたが、近年は日本の近代彫刻史にも関心を寄せている。本展には異界からの訪問者を思わせる佇まいの新作彫刻《徘徊と培養、ピンクの血》が出展される。この作品はゼロ年代の山本作品に見られた寓意性と日本の近代彫刻を相対化しようとする視点とが交差している。また仏彫や民芸品と現代アートとしてのオブジェの合流地点を模索した結果でもあるだろう。

戦前に生まれ、体育大学を卒業し高校教師をしながら美術団体展を発表の場の中心としてきた續橋。美大を卒業後、現代アートのコマーシャルギャラリーに所属しつつ、高校の非常勤講師も勤めながら活動する山本。一見するとまったく接点のない二人だが、実は隣人同士であり、教職の経験者でもあったのだ。それだけではない、二人のつくる作品にはどこか共振するところがある。それはコンセプトや造形言語の類似ではなく、それぞれの作家が規範とする方法論との距離を見計らいながら作品に投じた「労働」の質に他ならない。

パープルームギャラリーの正面の壁には前回展示したしー没の壁画を消した跡の汚れが残されている。パープルーム予備校7期生として新しく加入した「なぐ」と「齊藤孝尚」の清掃作業によって消されつつあったしー没の壁画こそが本展の基底面としてふさわしいのではないかと思い至り、ギャラリーのメンテナンス作業は中断された。美大を中退後相模原に引っ越してきたなぐ、そしてコロナ禍の影響で派遣切りにあい失業したのを機に美術の道を志すことにした齊藤孝尚の「労働」はそれぞれに固有の特徴を宿していた。

コロナ禍でわたしたちの生活も人との関わり方も一変してしまったが、パープルストリートのパープルームギャラリーでは秋の素敵な展覧会が開催されようとしている。


梅津庸一





作家のプロフィール

續橋仁子 1934年生まれ、神奈川県出身

山本桂輔 1979年生まれ、東京都出身